タングステンの特徴と精密加工のポイント

タングステン(レアメタルの一つ)はすべての金属の中で、最高の融点を持つ金属です。高温でも変形しにくいため、高温環境下での使用に適した材料ですが、非常に硬いため難削材に該当します。本記事ではタングステンの特徴と精密加工のポイントを整理してお伝えします。
タングステンの特徴と合金
タングステンの融点と硬度
タングステンはすべての金属の中で最も高い融点(3,400℃)を持つ金属です。その値は一般的な金属(鉄:1,500℃)や他のレアメタル(タンタル:2,990℃、モリブデン:2,620℃)と比べても突出しています。膨張率が低く、高温環境下でも変形しにくいため、超高温構造材料として利用されます。
また純金属の中でもきわめて硬い金属で、その硬度(ビッカース硬度)は310HVと、こちらも一般的な金属(鉄:110HV)や他のレアメタル(タンタル:140HV、モリブデン:260HV)と比べて際立っています。
タングステンの加工性の悪さ
高い硬度による工具摩耗
タングステンは非常に硬い金属なので、工具の刃先摩耗が進みやすく、安定した加工が難しい材料です。超硬合金やダイヤモンド工具を用いても、一般的な金属加工より工具寿命は短くなります。
脆性が大きく衝撃に弱い
タングステンは衝撃に弱いため、常温の加工では欠けやクラックが発生しやすくなります。特に薄肉部品や複雑形状の場合には、破損に対する十分な配慮が必要です。
熱伝導率が低く工具が焼き付きやすい
タングステンは熱伝導率が低いため、切削時に発生した熱が加工点に集中します。刃先温度が急激に上昇するため溶着や異常摩耗が起こりやすく、加工不能にいたるケースもあります。
タングステン合金の種類
タングステンカーバイド(WC)
タングステンと炭素を結合させたタングステンカーバイドは耐摩耗性の高い合金です。さらにコバルトやニッケルを添加した合金は超硬合金と呼ばれ、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持ちます。
銅タングステン(Cu-W)
銅タングステン合金はタングステンの強度・耐熱性と、銅の電気伝導性を併せ持つ複合材料です。電気接点や放電加工用電極など、電気特性が求められる部品に用いられます。
ヘビーアロイ
ヘビーアロイはタングステンを主成分とし、ニッケル、銅、鉄などを添加した合金です。純タングステンの加工性の悪さを補う目的で作られました。硬度、脆性、靭性のバランスに優れた多用途材料として使われています。
タングステンの主な用途
超硬工具・耐摩耗部材としての利用
タングステンの最大需要は超硬工具としての利用です。高速度鋼(ハイス)よりも耐摩耗性に優れた高硬度材料として、ドリル、エンドミル、切削用チップに用いられます。また金型部品にも使われ、金型の長寿命化やメンテナンス頻度の削減に貢献しています。
自動車のエンジン・排気部品
自動車エンジンの周辺部品や排気システムにも、タングステンが使われています。高温ガスや摩耗ストレス、繰り返し衝撃に長時間耐える必要があり、耐熱性と耐摩耗性を兼ね備えたタングステンがその役割を担っています。
医療機器の放射線遮断材
タングステンは鉛よりも密度が高く(タングステン:19.3 g/cm3、鉛:11.3 g/cm3)、X線やガンマ線などの放射線遮断部材としても用いられています。放射線治療装置で使われるコリメータやCTスキャン、カテーテルにもタングステン合金が使われています。
タングステン加工のポイント
切削加工
タングステンは硬度がきわめて高い材料なので、通常の工具では歯が立ちません。超硬合金やダイヤモンド、サーメット(炭化チタンにニッケルやモリブデンを添加した複合材料)などの特殊工具が必要となります。送り量を誤ると工具摩耗が急激に進行するため、加工はゆっくりと慎重に行います。
硬く脆いタングステンは、加工中のわずかな振動でもチッピングやクラックが発生しやすくなります。工具の突き出し長さの調整や、工作機械の剛性を確保することも重要です。
プレス加工
タングステンは常温では硬く脆い性質を持つため、ワークを200℃〜500℃で予熱し、延性を高めてからプレス加工を行います。ただし再結晶温度(1,200℃)を超えると結晶粒の粗大化が起こり、強度低下や割れのリスクが増えるため、適切な温度管理が大切です。プレス金型の材料は超硬合金や耐熱鋼を使用し、十分な強度と耐摩耗性を確保する必要があります。
溶接加工
融点が高いタングステン材料の接合は、ビス・ナットやリベットなど機械的締結が基本です。溶接加工を行う場合は、タングステンを電極棒として使用するTIG(Tungsten Inert Gas)溶接やレーザー溶接、電子ビーム溶接を用います。わずかな酸素の混入でも溶接部の品質が著しく低下するため、シールドガスの管理も重要となります。
タングステンの精密微細加工
マイクロドリル加工
マイクロドリル加工は極小径ドリルを使って、マイクロオーダーの穴あけをする切削加工技術です。ドリル径が小さく工具の折損リスクが高まるため、加工には高い技術が必要になります。工具の破損防止や高品質な穴加工の実現には、スピンドル回転数や送り速度の調整など高い技術が必要となります。
当社では合成繊維紡糸口金の製造で培った経験を活かし、タングステンのような難削材でも、高精度・高アスペクト比(深度L/直径D)の加工を実現しています。
精密プレス加工
タングステンのように硬度がきわめて高いワークの精密プレス加工では、金型材料に超硬合金のような耐摩耗性に優れた材料を使用する必要があります。安定品質を維持するためには、繰り返し加工による摩耗チェックとメンテナンスのきめ細かい管理が必要です。
放電加工
放電加工は放電現象を利用してワーク(材料)を溶融除去する加工方法です。加工形状を模写したマスターを電極として使用して加工する形彫り放電加工と、ワイヤーを使用してワークを切断するワイヤー放電加工があります。放電加工はワークを溶融しながら加工をするため、切削加工やプレス加工では困難な高硬度材料の加工に適しています。バリが少なく滑らかで高品質な仕上がりが特徴です。
当社の形彫り放電加工技術では、最小径Φ3μmの微細な孔加工が可能です。
レーザー微細加工
レーザー微細加工はマイクロオーダーの多孔パターンやディンプルを、高速であける加工技術です。刃物や工具を使用しないため、他の加工法で問題となる摩耗による精度低下が抑えられ、複雑な形状でも精度よく加工できる特徴があります。レーザー微細加工には、超短パルスレーザー方式と、ロングパルスレーザー方式の2種類があります。超短パルスレーザーを使用すると、照射熱によるワークへの熱影響を抑えることができ、狭ピッチ・ストレート孔加工が可能です。
当社独自開発のレーザー微細加工技術は、Φ10μm、最小ピッチ50μmの微小・多孔加工を実現しています。
集束イオンビーム(FIB)加工
集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam)加工は、イオンビームを使って原子レベルで材料を除去する先端加工技術です。タングステンのような難削材でも、ナノオーダーの超微細加工が可能です。ワークに熱影響をほとんど与えずに試料の表面や断面を観察しながら高精度な加工ができます。
当社のFIB加工技術は、太陽観測ロケット部品にも採用された実績があります。
東レ・プレシジョンのタングステン微細加工事例
ここからは、当社で実際に行った微細加工事例をご紹介していきます。
高融点金属箔のマスク加工

https://www.tpc.toray/technology/hole/hol_015.html
平行多孔コリメータ

https://www.tpc.toray/technology/additive-print/add_002_001.html
コーデッドマスク(符号化開口)

https://www.tpc.toray/technology/additive-print/add_002_003.html
タングステンの精密加工は東レ・プレシジョンにご相談ください
タングステンは高融点・高硬度など優れた機械的特性を持つ一方で、加工には高度な技術と経験が求められる、難加工材料です。
東レ・プレシジョンは、長年にわたり難削材・高機能材料の精密加工技術を磨いてきました。タングステンをはじめとする特殊金属の加工技術で、お客様の多様なニーズにお応えしています。