モリブデンの特徴と精密加工のポイント

モリブデンの特徴と精密加工のポイント

モリブデン(レアメタルの一つ)は高い融点と、優れた機械的強度を持つ金属です。熱膨張率が低く、高温強度が高いため、高温環境下で用いられます。しかし延性が低く脆いため、常温での加工性が悪いという性質もあります。本記事ではモリブデンの特徴と精密加工のポイントを整理してお伝えします。

モリブデンの特徴

モリブデンの融点と強度

モリブデンは金属元素の中で5番目に高い融点(2,620℃)を持ち、機械的強度と剛性にも優れた金属です。体心立方構造を持つモリブデンは高温で変形しにくく、熱膨張率も低いため、高温環境下での利用に適した金属です。このような高温構造材料は、タングステンやタンタルなど融点2000℃超の高融点金属を総称してリフラクトリーメタルとも呼ばれます。

熱伝導性・電気伝導性が高温でも安定

モリブデンは良好な熱伝導性と電気伝導性を持つ金属です。常温での熱伝導率・電気伝導率は銅の30%ほどしかありませんが、500℃を超えるような環境下でも、安定した特性を発揮するため、半導体製造装置の電極、X線管の陽極、発熱体など、高温下で使われる部品に採用されています。

モリブデンとタングステンの加工性の違い

モリブデンの結晶構造は、タングステンと同じく常温で体心立方構造を持ち、周期表は同じ6族の元素で、原子半径も近いため、機械的・化学的性質が非常によく似た金属です。しかしモリブデンはタングステンよりも原子間結合が弱く、延性・靭性が比較的高いため、難削材の中では加工しやすい金属と言われています。

モリブデンの主な用途

鋼材の添加材としての利用

モリブデンの最大需要は鉄鋼材料の添加剤としての利用です。鋼にわずか数パーセントのモリブデンを添加するだけで、強度や耐食性を大幅に向上させることができます。強度に優れるモリブデン鋼や、高い耐食性を持つSUS316(ステンレス鋼)は自動車部品から建設用途、包丁や医療メスなど幅広く利用されています。

半導体・真空装置向けの電極・基板

モリブデンは半導体の製造プロセスには欠かせない材料です。半導体の製造プロセスは、高温・真空環境下で行われることが多く、一般的な金属材料では耐熱性やアウトガスの影響が大きいため対応できません。モリブデンは高融点で蒸気圧は極めて低く、真空中でも蒸発しにくい特性を持つため、半導体製造装置内の構造部材やスパッタリングターゲット、蒸着装置の電極として用いられています。

※スパッタリングターゲット:薄膜形成法における成膜金属のこと。材質や純度が成膜品質・半導体の性能を左右します。

高温炉部材や真空管用部品

モリブデンは高温炉の支持部材としても用いられます。特に金属の熱処理や焼結プロセスでは、モリブデン製のヒーターや保持具が欠かせません。X線管の陽極ターゲット、電子銃の部品、高周波発振管の電極などの真空管用部品にもモリブデンが使われています。これらの分野では高温での安定性と電気特性の両立が求められ、モリブデンの特性が活かされています。

モリブデン加工のポイント

切削加工

モリブデンは切削抵抗が大きいため、加工工具には硬度と靱性のバランスの良い超硬合金が適し、仕上げではダイヤ工具も有効です。一方、サーメットは靱性不足と低速切削との相性の悪さから適しません。加工中は工具摩耗が早いため、加工速度は遅めに設定し、送り量も慎重にコントロールする必要があります。また加工熱を適切に逃さないと材料が脆化するため、切削油を使用し加工部の温度上昇を抑えることも重要です。

プレス加工

モリブデンのプレス加工では、予熱と応力集中の回避が大切です。モリブデンは延性‐脆性遷移温度(DBTT)が常温付近にあるため、常温のまま加工すると割れが起きやすくなります。安定した加工を行うためにはワークをDBTT以上に予熱することが重要です。また、一般的な材料と比べ、展性・靭性が低く、応力集中による破れやクラックのリスクが高いため、パンチ・ダイの位置ずれやクリアランスには高い精度が求められます。

※DBTT:延性‐脆性遷移温度(Ductile–Brittle Transition Temperature)

溶接加工

モリブデンは600℃以上の大気中で揮発性の酸化物を生成するため、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で加工を行います。モリブデンの溶接ではTIG(Tungsten Inert Gas)や電子ビームを用いるのが一般的です。過度な入熱は溶接部の強度低下や割れの原因となり、入熱不足は接合不良を引き起こすため、入熱量のコントロールは慎重に行う必要があります。

モリブデンの精密微細加工

マイクロドリル加工

マイクロドリル加工とは、極小径のドリルを用いて、穴あけ加工を行う精密切削加工技術です。ドリル径が小さいため工具破損のリスクが高く、精密な加工技術が求められます。スピンドル回転数は数万rpmと、一般的なドリル加工よりもはるかに高速となるため、送り速度や切削条件を誤ると、工具破損や加工精度の低下に直結します。

当社では合成繊維製造で培ってきた精密加工技術を活かし、モリブデンのような難削材でも、世界水準の加工精度を実現しています。

精密プレス加工

モリブデンのプレス加工は金型への負荷が大きいため、金型には超硬合金など耐摩耗性を備えた材料を選ぶ必要があります。安定した加工品質を維持するためには、繰り返し加工による金型の摩耗確認ときめ細かなメンテナンスが欠かせません。

当社では、耐久性の高い専用治具設計と、CAE解析を活用した独自の精密プレス加工技術により、従来は難しかったΦ10μmクラスの微細孔加工や、複雑な微細形状の加工に対応しています。

超微細放電加工

超微細放電加工は、放電現象を利用して材料表面を溶融・除去する加工技術です。あらかじめ加工形状を映した電極(マスター)を使い、電極とワークの間で放電させ、目的形状を転写・形成します。非接触加工のため工具摩耗の心配がなく、切削やプレスでは困難な加工に適した方法です。バリの発生が少なく、微細孔や複雑な形状においても滑らかで均一な仕上がりが得られます。

レーザー微細加工

レーザー微細加工は、マイクロメートルオーダーの多孔パターンやディンプル形状を高速・高精度に形成できる加工技術です。非接触加工のため摩耗の影響を受けにくく、モリブデンのような難削材でも安定した加工が可能です。レーザー微細加工には、超短パルスレーザーとロングパルスレーザーの2種類の方式があり、用途に応じて使い分けられます。超短パルスレーザー方式は照射時間が非常に短いため、熱損傷の少ない高品位の加工、狭ピッチ・ストレートな微細孔加工を実現できます。

当社では多軸スキャナーを用いた独自開発のレーザー微細加工技術により、最小孔Φ10μm、最小ピッチ50μmの高密度な微細・多孔加工を実現しています。

集束イオンビーム(FIB)加工

集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工は、イオンビームを集束させ、原子レベルで材料を除去する超精密加工技術です。モリブデンのような難削材にも対応しており、他の加工方法では実現できないナノオーダーの微細加工が可能です。加工時の入熱がきわめて小さいため、熱損傷の少ない高精度・高品位な仕上がりを実現できます。

当社のFIB加工技術は、太陽観測ロケット用部品にも採用され、その加工技術は高い評価を受けています。

東レ・プレシジョンのモリブデン微細加工事例

ここからは、当社で実際に行った微細加工事例をご紹介していきます。

メタルマスク加工

メタルマスク加工
https://www.tpc.toray/technology/hole/hol_012.html

高精度孔径・ピッチ加工

高精度孔径・ピッチ加工
https://www.tpc.toray/technology/hole/hol_008.html

メタルマスク加工 - 四角孔

メタルマスク加工 - 四角孔
https://www.tpc.toray/technology/hole/hol_013.html

モリブデンの精密加工は東レ・プレシジョンにご相談ください

モリブデンはきわめて高い耐熱性と高温強度、電気伝導性を兼ね備えた材料ですが、精密加工には専門的なノウハウと熟練の技術が必要です。

東レ・プレシジョンは、長年にわたり難削材や高機能材料の精密加工に取り組み、独自のノウハウを蓄積してきました。モリブデンをはじめとする特殊金属の精密加工においても、用途や要求仕様に合わせたソリューションを提供しています。