チタン加工は難しい?特長や代表的な加工方法、加工時の注意点を解説

航空宇宙産業から医療機器、最新のスマートフォンに至るまで、ハイエンドな製品に欠かせない素材のひとつとしてチタン(Ti)があります。
チタンは軽量・強度・耐食性に優れていますが、加工の観点では非常に加工が難しい難削材と呼ばれる素材です。
本記事では、チタン(Ti)の基礎知識や特長、加工面での課題、加工を成功させるポイントなどを詳しくご紹介します。
チタンとは
チタン(元素記号:Ti)は、地殻の中では鉄・アルミニウム・マグネシウムに次いで4番目に多い金属資源でありながら、精錬の難しさから高価な材料になります。
チタンの最大の特長は、金属材料の中でトップクラスの「比強度(強度/密度)」と「耐食性」です。さらに、合金設計により多様な物理的・機械的特性を実現できることから、航空宇宙・深海調査・エネルギー・医療、さらには次世代の半導体製造装置に至るまで幅広い分野で活用されています。
チタンの特長
チタンが採用される理由は以下の優れた物理特性が挙げられます。
- 優れた比強度
- 卓越した耐食性
- 高い耐熱性と低熱伝導性
- 生体適合性
1. 優れた比強度(強度/密度)
「比強度」とは、密度あたりの強度(引張強さ)を表す指標で、この値が大きいほど、軽量で高強度な材料であることを示します。チタンはこの比強度の値が実用金属の中でトップクラスに優れています。鉄と比較した場合、チタンの比重は約4.51で鉄(約7.87)の約6割程度となります。また、一般的なチタン合金(Ti-6Al-4Vなど)の強度(引張強さ)は鋼材と同等以上で、つまり「チタンで鉄と同じ強さの部品を製作した場合、重さは半分近くまで軽量できる」というようにいえます。重量のあるものを高速で動かしたいなどのケースでチタンへ置き換えるとメリットがあります。
2. 卓越した耐食性
チタンが錆びにくい要因に表面の「不動態被膜」が挙げられます。不動態被膜とは金属表面に自然に形成される保護膜(酸化皮膜)のことです。この膜が内部を完全に保護する強固なバリアの役目をします。また、もし傷がついても酸素があれば瞬時に膜を生成する自己修復機能も備えており、金属材料の中でもチタンが耐食性に優れるといわれる所以です。
さらに、塩化物イオンにも強く、海水や塩水の中でも腐食がほとんど進まないので、海水に関する設備や構造物・装置にも多く採用されています。※ただし、特定の環境下(例えば、フッ素や高温高濃度の非酸化性酸のある環境下など)では不動態被膜が破壊されて腐食が進むことがあります。
3. 高い耐熱性と低熱伝導
高い耐熱性:
チタンの融点は約1668℃と、鉄の1538℃と比べて高いです。実用面でもアルミニウム合金の強度が落ちてしまう300℃を超える環境下でも、チタンなら変形や破損に対する耐性(高温強度)を維持できます。また、耐熱合金のチタンでは500℃を超える高温環境下においても優れた温度強度を保つこともできます。
低い熱伝導性:
チタンの熱伝導率は、鉄の約1/4、アルミニウムの約1/10と非常に低く、熱を伝えにくい金属です。そのため、エンジン周りなど熱を周囲に広げたくない断熱部品として適しています。一方で、この低熱伝導性が加工面ではデメリットとなり「難削材」の主要因です。加工時の摩擦熱が材料に逃げず、工具の刃先に集中して工具寿命を縮めてしまうことがあります。
4. 生体適合性
チタンは金属アレルギーの原因となる「イオン溶出」がほとんどないため、体内で「異物」と認識しづらく、人体にとって安全な金属としても知られています。
アレルギーフリー:
汗や体液に触れてもイオン化しづらいため、金属アレルギー反応を起こしません。
骨結合(オッセオインテグレーション):
チタンには、人間の骨と直接機能的に結合する不思議な性質があります。人工歯骨(インプラント)や人工関節が体内でグラつかず固定されるのはこのためです。
非磁性:
純チタンは常磁性体ではありますが非常に弱く、強力な磁石を当てたり、磁場の中でも吸着・発熱することがないため、MRI(磁気共鳴画像診断装置)などで利用されています。
チタンの種類
実用チタン材は大きく「純チタン」と「チタン合金」に分けられます。
純チタン
不純物が少ないタイプ。酸素や窒素などの含有量により1~4種に分類される。
耐食性に優れ、加工性は良好。強度はチタン合金に劣る。
耐食性を重視する化学プラント・海水関連装置などに採用される。
チタン合金
チタン合金は結晶構造(微視的組織)で大きく3つに分類されます。また、チタンは温度によって結晶構造が変化し、低温側でα構造、高温側でβ構造となる性質を持っています。
- α型合金・・・α構造のみまたはα構造が主体となる合金。α構造は純チタンと同じ構造で、高耐食・耐熱性に優れる。
- β型合金・・・β構造を主体とする合金で高強度で加工性が良い。熱処理可能。
- α+β型合金・・・α相とβ相の両方を含む合金で、最も広く利用されている万能タイプ(代表例Ti-6Al-4V)。α型合金の耐食性・耐熱性と、β型の加工性・熱処理性を併せ持つバランス型。
チタンの加工は難しい?
チタンは優れた物理・化学・機械的な特長を持ちますが、この特長が「難削材」と呼ばれる要因にもなっています。詳細は下記に起因します。
1. 低い熱伝導率による「熱の蓄積」
チタンは熱伝導率が低いため、加工時に発生した切削の熱が材料や切り屑に逃げにくく、工具の刃先に蓄積します。この熱の蓄積により、刃先温度が1000℃以上に達することもあり、工具の摩耗の進行や寿命低下、加工精度が悪化の原因となります。
2. 化学的活性の高さによる「溶着」
チタンは高温になると化学的に活性し、他の物質と反応しやすい性質があります。このため、切削中に高温になった工具刃先に、削り取られたチタンが張り付いてしまう「溶着」が発生します。「溶着」が発生したまま加工を続けると、切削状態が不安定になり、加工精度や表面品質に影響してきます。
また、高温の切り屑が酸素と反応して発火する場合もあるため、加工時は火災リスクにも注意する必要があります。
3. 低いヤング率による「弾性変形」
チタンはヤング率(材料の剛性を示す指標)が低くしなりやすい性質があります。そのため、加工時に材料が刃物から逃げやすく、加工精度のばらつきやびびり(自励振動)が発生することがあります。例えば、薄板や棒状の材料を加工すると、刃物を当てても材料が変形するため、狙った位置からずれて寸法不良が生じることがあります。また、変形した材料がばねのように元に戻ろうとしたときに、びびりが発生することがあります。
代表的なチタンの加工方法
チタンを加工するには材料特性に応じた最適な工法の選定が重要です。ここでは代表的な加工方法について紹介します。
切削加工
切削工具(刃物)を使って削り取る加工方法。旋盤加工・フライス加工などがあり、汎用的なマシニングセンタや旋盤で加工が可能。形状の自由度が高い。
高剛性マシニングセンタと耐熱性に優れた超硬工具の組み合わせが主流。
研削加工
砥石を高速回転させて、表面を少しずつ削り滑らかにする加工方法。高い寸法精度と鏡面に近い状態まで仕上げることが可能。
放電加工
材料と電極との間に生じる熱や衝撃によって表面を削る非接触の加工方法。刃物を押し当てないため、チタンの弱点である「弾性変形(しなり)」の影響を受けずに加工ができる。Ti-6Al-4Vのような硬い合金でも導電性があるため加工が可能。
レーザー加工
高エネルギーのレーザーを照射して、材料を局所的に溶かして飛ばす加工法。放電加工同様、非接触な加工法であるため、「弾性変形(しなり)」の影響は受けない。特に薄い板の切断や小孔を加工したいときに適する。
溶接加工
金属同士を加熱・溶融して接合する加工法であり、場合によっては圧力を併用して接合する方法も含まれます。チタンの場合、高温状態になると酸素や窒素との反応が活性化し、溶接部が脆化するおそれがあります。そのため、溶接時には雰囲気管理(不活性ガスによるシールドなど)が重要となります。
積層造形(3Dプリンティング)
金属粉末を面で敷き詰め、局所的にレーザーを照射して溶融させて冷えた際に固まるプロセスを積層していくことで意図した形状を作る加工法。Ti-6Al-4Vが広く利用されている。
チタン加工時のポイント
切削加工
チタンを加工する際の対策として、刃先の温度上昇抑制のため回転速度を低速にします。また、工具の切れ味を維持し摩耗を抑制するため、刃先が鋭い(シャープエッジ)工具の選定、加工硬化が起きる前に一気に削り取るなどがあります。
研削加工
チタンは粘り気が強いため、砥石にチタンが溶着して目詰まり(ドレッシング頻発・砥石寿命低下)を起こす可能性があります。そのため、砥石の選定、十分な研削液の使用、研削条件の最適化などが対策として挙げられます。
放電加工
切削加工と比較すると加工時間がかかります。また、表面が一度溶融するため薄い変質層(加工変質層)が残る場合があります。
レーザー加工
チタンは高温になると酸素と反応して脆くなるため、加工時はアルゴンなどの不活性ガスで周囲をシールドする必要があります。
微細加工のポイント
チタンの微細加工は単一要因で難しいのではなく、熱・弾性変形(しなり)・溶着の3つが複合的に同時進行する点が難しいといわれる要因です。
複数の観点で網羅的に対策を打っていくことが重要になります。
【対策ポイント】
1. 低熱伝導率への対応
熱の集中を回避する対策として、適切な切削速度や冷却方法、工具の素材選定などを検討する
2. 弾性変形やびびり対策
寸法精度に影響するため、しなりを最小限にできる高剛性の治具や最適工具を選定する
3. 微細加工特有の溶着対策
微細加工では溶着が発生すると刃先の欠けや摩耗が顕著に影響するため、工具の素材選定・清浄性の維持を検討する
4. バリ対策
バリ発生が懸念されるので、切れ味の鋭い工具の選定、加工条件の最適化を行い、発生抑制を行う
チタンの微細加工では寸法不良やバリの発生など様々な課題が発生しやすいです。お困りの際は東レ・プレシジョンにお気軽にご相談ください。
東レ・プレシジョンのチタン微細加工事例
ここからは、当社で実際に行った微細加工事例をご紹介していきます。
フィルタ

https://www.tpc.toray/technology/additive-print/add_002_021.html
矩形コリメータ

https://www.tpc.toray/technology/additive-print/add_002_020.html
高精度なチタン加工は東レ・プレシジョンにお任せください
チタンの特長や加工時の注意点についてご紹介しました。チタンは金属製品として優れている一方、加工の難易度は非常に高くなっています。
東レ・プレシジョンでは、高精度な微細加工の試作品やオーダー品の製作を受託加工で承っています。チタンの微細加工で専門的な加工技術が必要な場合やミクロン単位の高精度な加工でお悩みなどありましたらお気軽にご相談ください。